頚椎後方固定術

I 現在の診断名、原因

1 診断名:頚椎不安定症 ← 不安定性の原因

2 病状:炎症や腫瘍、外傷や変性などに起因する頚椎の不安定が原因で、脊髄が圧迫され四肢不全麻痺(切迫麻痺)の症状が生じています。また、正常な支持性を失った状態の頚椎では、体を起こすことが難しく、麻痺の悪化が危惧されます。

 

II 予定されている手術の名称と方法

1 麻酔: 全身麻酔

2 手術名:頚椎後方固定術

3 方法:頚部の後方を切開し、椎弓を展開します。正常な支持性を失い不安定な部位に対し、スクリューなどを用いて固定術をおこないます。その後、病態に応じて、除圧術などを追加します。骨癒合が得られやすいように骨盤からの骨移植を行うこともあります。

 

III 手術に伴い期待される効果と限界

1効果:固定を行うことで安心して体を動かすことができます。四肢の麻痺が軽減することが期待されます。軽減しない場合でも、症状の悪化をくいとめることが期待できます。

2 限界:変性疾患の平均改善率をみると60~70%です。外傷や腫瘍では 改善率がさらに悪くなります。症状の一部が残存する可能性があります。とくに,しびれ感は残存する可能性があります. また、術後早期には頚項部の痛みやこわばりを感ずる場合があります(約40%) 。通常、時間の経過とともに軽快していきます。 骨癒合が得られない場合や、固定した椎間の上下に長期的に狭窄や不安定性を来した場合、再度手術が必要となることがあります。

 

IV 手術を受けない場合に予測される病状の推移と可能な他の治療法

1 予測される病状の推移:四肢の不全麻痺(手足のしびれ、巧緻運動障害、歩行 障害、排尿障害)が進行する可能性が高いと思われます。

2 可能な他の治療法:安静臥床、ハローベスト、頚椎カラーなどで、頚椎を安定に保つ方法もあります。

 

V 予測される合併症とその危険性

1 麻酔に伴う合併症: 稀ではありますが、気管の腫脹,血圧低下などの可能性があります.肺炎、心筋梗塞、脳卒中、麻酔のアレルギーなどで死亡する可能性もありま  す(1%未満)。

2 手術操作によって,神経を障害する可能性があり,麻痺の悪化もありえます(数%)。 3 感染症:手術では最大限清潔な操作を行っておりますが、感染の危険はゼロではありません(約1%)。感染を生じると内固定具を抜去する必要が生じます。

4 深部静脈血栓症 エコノミークラス症候群: 術後に足の静脈内で血が固まり詰まることがあります。この場合は足がむくむだけでなく、血の固まりが心臓や肺などにとぶ可能性があります。 心臓や肺などの血管が詰まると命にかかわります。定期的に検査を行って、この徴候が見られたら固まりを溶かすよう点滴を行います。

5 輸血に伴う合併症:手術中、あるいは手術後に必要になった場合、輸血する可能性があります。その場合、輸血による副作用が出現する可能性があります。

6 椎骨動脈損傷:スクリューの挿入位置に近い部分に、椎骨動脈が走行しております。術前に走行の評価を行い、さまざまなガイド(透視、ナビゲーションなど)を用いますが、椎骨動脈を損傷することがあります(数%)。この場合、めまいや 脳底動脈血流不全症や小脳梗塞などの原因となることがあります。

7その他: 硬膜外血腫(約1%は、再手術による血腫除去が必要) 脊髄液漏出(数日~1週間程度の頭痛、離床の遅れ) 術中の体位(腹臥位)による皮膚圧迫(顔面,眼球,胸部,骨盤部など)大腿皮神経麻痺(大腿前面のしびれ感), 長期的に硬膜周囲の瘢痕,硬膜内の神経癒着,椎弓切除による脊椎の不安定性など.

VI 予測できない偶発症の可能性とそれに対する対応策 偶発的な合併症が出現する危険性もありますが、これらに対しては適宜病状を説明した上で治療に努めます.